あなたにとって魔法とは


第二章 第二部  頼事




光の扉をくぐった先は真っ暗だった。さっき自分が通ってきた光の扉と同じような光が数百メートル先にあるだけだった。

「闇ってのはこういうのをいうんだろうな」

ポツリと思ったことが口から出る。帆叢がそう思うのもわけはない。右も左も見渡す限り暗闇が広がっている。

「あら、あんた知ってたの?」

いつの間にか扉をくぐってきた女の子がすぐそばに立っていた。帆叢がそれに気づくと同時に、後ろにある光の扉が小さくなり始めた。

女の子はそんなことを全く気にせずに歩き出す。

「お、おい!これ消えてるぞ!」

慌てて女の子を呼び止めるが彼女は無視して歩き続ける。帆叢は

「おい、聞いてるのか!光が消えてくぞ!」

女の子は帆叢の手を払ってそのまま歩き続ける。そして、面倒くさそうに一言。

「扉は開いたら閉めるものでしょうが」

確かにその通りなのだがかなりムカつく。言い方も態度も全部。帆叢は我慢して先ほどのことを聞き返す。

「さっき言ってた俺が知ってるってのは何のことだ?」

帆叢は女の子の少しななめ後ろを歩いてついていっている。

「ここのことよ」

女の子は短く返事を返す。短すぎて意味がわからない。

「なんでそういうことになるんだよ。知らないに決まってるだろうが」

帆叢がそう言うとそれまで帆叢を見ずにひたすら歩いていた女の子が立ち止まって振り返った。

「じゃあなんでさっき…やっぱりいいわ」

女の子は再び前を向いて歩きだした。

「なんだよ、ちゃんと言えよ。気になるだろうが」

「いちいち気にするんじゃないわよ。小さいわね」

帆叢は立ち止まって思う。

理不尽だ。

俺、何か間違ってる?間違ってないよね?なんでこんな扱いなの?

帆叢はその場に立ったまま歩いて行く女の子を見ていたが、視線を辺りに移してみた。本当に何もないところだった。

床のようなものはあるが、天井はない。壁もない。いったいどこまで続いているのだろうか。

しばらく考えていたがわかるわけもなく、ふたたび歩き始めた。女の子の姿はもうない。先に光に入ったようだ。

案内人が勝手に言ってどうするんだ。もし道に迷ったらどうするつもりなんだよ。迷いようはないけどな。などと心の中で文句をいいながら光をくぐった。

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