あなたにとって魔法とは
プロローグ
Q「あなたにとって魔法とは何ですか?」
A「便利なもの」
「望みを叶えるもの」
ほとんどの人はこう答えるだろう。しかし、ある青年は、
「あるだけ無駄なもの」
と答える。
Q「魔法を使いたいですか?」
A「使いたい」
ほとんどの人はこう答えるだろう。しかしある青年は
「使いたくない」
と答える。
「もう・・・」
青年の言葉は続く。
「もう二度と…」
朝は定時に起き、顔を洗い、歯を磨き、服を着替え、朝食を食べ、学校に行き、授業を受け、昼になると昼食を食べ、また授業を受け、放課後になるとバイトをして、
バイトが終わると家に帰り、風呂に入り、夕食を食べて寝る。そんな普通の生活を送る一人の青年がいた。あることを除けば普通の人と変わらない一人の青年が。
魔法を使えるということを除けば・・・。
その青年、秋雨帆叢はそんな日常に飽きていた。魔法を使えばそんな平凡な日常は劇的に変化するだろう。しかし、彼はそうしなかった。
彼が魔法を使っても、人を驚かすか、傷つけるか、物を破壊することしか出来ないからだ。帆叢が使える魔法は「火」。すべてを燃やし尽くす炎だった。
「火」以外も使ってみようとしたが使えなかった。それだけしか使えなかった。その魔法でも超能力のように扱われ、有名になれたかもしれない。
でも、彼は使わなかった。人を治療したり、助けたりすることができるなら使ったかもしれない。人を救うことができる力ならば。
けれど、「火」は破壊し、傷つけることしかできない。それを彼は身をもって知っていた。だから、あの日、誰も救えない力を、
「魔法」という名の力を二度と使わないと誓った。そして、あの日から、一度もその力を使っていない。そんなわけで特別な力があっても彼は平凡な日常を過ごしている。
「………」
彼は黙って家に帰る。こうして、今日も彼の何の変哲もないつまらない日常が終わる。
………はずだった。
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